最近はどうも鳥運が悪いこともあって、なんとなく初心者向けのTIPS的なのをひとつ。
カワセミはまだまだ初心者ですが、通常の野鳥撮影は中級者くらいにはなった気がするので😂
露出補正
まず露出補正ですが、初心者の方はJPEG撮って出しで野鳥を撮っている方も多く、露出補正を適正(±0)で撮っている方がかなり多いようです。
ただ、JPEG撮って出しで撮ることも、露出補正を±0で撮るのもあまりオススメしません。
白飛びを防ぐ
私は野鳥撮影ではほとんどの場合 露出補正 EV-2 で撮っています。
というのも、野鳥は大体どこかは白い羽毛なので、EV ±0では白飛びすることが非常に多いためです。
「白飛び」は保存できる最大の階調に達していてどう補正しても単色になってしまう状態のことで、その状態になった部分は頑張っても情報がないので救いようがありません。
このヤマセミの写真では頬の白い羽毛が白飛びで少し潰れていますね。
ハイライトを思い切り下げるとほんの少しは羽毛が浮かんでくるのですが、かなり不自然に見えてしまいます。
RAW現像ならば大体 EV-3 くらいまでは持ち上げても何とかなりますので、白飛びさせるくらいならEVはあらかじめ下げておいた方が安全です。
そんなことしたら「黒潰れ」しちゃうんじゃないの?と思われるかもしれませんが、最近のセンサーは優秀で暗所の階調は相当頑張って残してくれます。
「白飛びは光の加減などで簡単に起こりますが、黒潰れはそう簡単には起きない」と思ってください。
もちろん、空などの背景が明るいシチュエーションではEV±0とかに上げますが、撮って出しでは±3~とかにして撮りますので、これも露出は低めで撮っている感じになります。
ISOやシャッタースピードに余裕を持たせる
そして、露出を下げて撮ることには大きなメリットがあります。
露出を下げて撮ることで、白飛び対策になる上にISOやシャッタースピードに余裕を持たせることができるようになるという事です。
このショットは F5.6 SS 1/4000 ISO 640 EV -2ですので、もしEV -2にしていなかったら SSを1/1000に落とすか、ISOを2560まで上げるかしなければならなくなります。
カワセミでSS1/1000は厳しいのでEV±0ならばSS 1/2000でISO1280というところでしょうか。
まだ許容範囲ですが、もう少し暗くなるとアウト…という感じですね。
EV -2ならば暗くなってもまだまだいけます。
EVに関しては下げてもある程度なら画質に大した影響はないのですが、SSやISOはそうはいかないのでまずはEVを下げられるだけ下げる…というのが効率が良いです。
RAW現像
APS-CでのRAW現像作例
まずRAW現像は「面倒」「よくわからない」などの理由で敬遠されて、JPEG撮って出しされている初心者の方が多いようです。
よくネットで見かけるのが「EOS R7からR8に買い替えてJPEG撮って出しが綺麗になりました!」とかですが、露出補正±0で、ISOもシャッタースピードも厳しい状態で、ノイズ除去もシャープネスも調整せずに、JPEG撮って出しで比べると、流石にR7が可哀想😇
フルサイズにはフルサイズの良い点が沢山あるのですが、とまりものはよほど被写体に近づくスキルを持っていない限り、フルサイズの方が良いという場面は限定的です。
もちろんサギやカラスやカモメとかみたいに大きな鳥や近づいても逃げない鳥を撮るなら、その限りではないのですが。
このコゲラはEOS R7 + EF800mm F5.6L IS USMで撮った写真ですが、この画質で満足できないとしたら至近距離でフルサイズで撮るしかないかもしれませんけど、ほとんどの方は満足できる画質なのではないかと思います。
APS-Cは暗所に弱いとよく言われますが、これは早朝の薄暗い中で陽の光が差し始めたくらいで撮りました。
この写真もAPS-Cだから画質が気になる…という事はあまりないように思います。
昔の感覚でAPS-Cは暗所に極端に弱いと思われている方が多いのですが、実は今はAIノイズ除去でRAW現像のISO耐性は格段に向上しているので、フルサイズとの差はかなり縮まっています。
フルサイズが暗所に強い理由はAPS-Cより画素ピッチが広くて1画素あたりの受光面積が広いからですが、逆にトリミング前提の野鳥撮影においては精細さ(画素数)が失われているため、トリミングや補正をかけづらいというマイナス面もあります。
私はカワセミ撮影はEOS-1D X mark IIIを使っていますし、APS-Cが無条件で良いとは思っていませんが野鳥撮影で非常に有用なことは間違いありませんので、EOS R7は使いこなすのは難しいですがオススメはしておきます 🙂
RAW現像を前提に撮影してしっかり現像すればEOS R7も最高の相棒になりますし、もちろん他のボディもJPEG撮って出しで使うよりは何ランクも上の写真を撮れますので是非トライしてみてください。
RAW現像が有利な理由
露出補正の例
このルリビタキですが相当の悪条件で、ほんの少し背中に朝日が当たり始めたかな?というくらいの薄暗さで撮ってます。


撮って出し(EV-2)とRAW現像したものとの比較ですが、暗い中で更にEV-2して「黒潰れしてるんじゃ….」と不安になるくらい真っ黒ですが、RAW現像で持ち上げるとしっかりとディテールが残っていることがわかります。
これがもし EV-2 していなかったら、SSは小鳥を撮るにはかなり被写体ブレが気になる1/100~1/200くらい、ISOはノイズがかなり目立ち始める 1280~2560になってしまって、かなり厳しい撮影となります。
もちろん努力と根性と運でもっと良いシチュエーションで撮る…というのも良いのですが、少なくとも時間に制限がある趣味の野鳥撮影では、EV±0のJPEG出力にこだわると非常に効率が悪いことがわかると思います。
RAWとJPEGで何が違うのか?
露出補正処理の比較
この写真はEV-3.3で撮っていますのでRAW現像で露出を +3 くらい持ち上げています。


これはEV-3.3で撮った写真を一度JPEGにして(= EV-3.3でのJPEG撮って出し)、明度調整をしたものと比較です。
どう見ても歴然とした差がありますね。
※違いが判らない場合は解像度の高いモニターで比べてみてください
カラー深度の違い
なぜRAWとJPEG撮って出しでこんなに違うのかというと、圧縮ノイズもありますが何より画素のカラー深度が違います。
RAWはRGB各14bitカラーで各補正をかける前の状態で保存されていて、JPEGは各補正が行われた後にRGB各14bit⇒8bitに階調を落とした状態で非可逆圧縮保存されています。


これは先ほどのヤマセミ写真の背景をクローズアップしたものですが、JPEGからでは露出を持ち上げるとノイズがひどく、更に色の断層のようなものができているのが見てとれます。
説明が難しいですが、例えば単純にカラー値を3倍に明るくしてJPEGで出力したとします。
するとJPEG 8bitの方は元の0,1,2,3という最小単位階調にx3すると0,3,6,9….といったように3おきの粗い階調になりますが、RAW14bitで補正して8bitに変換した場合は0,1,2,3…という感じで、まだまだ最小単位の階調で出力できることになります。
8bit = 256階調 14bit=16,384階調 なので、RAWはJPGに比べて+6bit、64倍の階調を保持してるので露出補正に歴然とした違いがでるんですね。
更にカメラ内のノイズ除去はDxO PureRAW3などにくらべると遥かに劣っているので、ノイズ除去でも差が出てしまっています。
EOS Rシリーズは電子シャッターの高速連写で撮ると14bitではなく12bitになる事がありますが、それでもJPGの8bitに比べると+4bit、16倍の階調があります。
RAW現像やトリミングしない事の不思議
私はRAW現像やトリミングをしない理由がいまいちわからないのですが、フィルム時代から撮っていた方の中にはカメラから出てきた写真を手を加えずに使うのが正道と考えている方々もいるようです。
ただボディ内では結局DPPのRAW現像と同じくデジタル処理が行われていますし、トリミングに関してもフルサイズとAPS-Cの違いと一緒です。
AIによる生成的な補正は既に写真ではないのではないか?という議論はわかるものの、おそらく数年後にはカメラボディ内で当たり前のようにAIによるフィルタ処理が行われる時代が来ます。
フィルム撮影が味があって良い…というのならば理解できますが、デジタルカメラを使っていてRAW現像を嫌がる理由はあまりないように思いますので、RAW撮影されていない方は是非やってみることをお勧めします 🙂
DPPを使っていて「RAWは現像がおそい」と思ってる方はCaptureOneなりを使ってみてください。
綺麗でかつDPPの10倍以上は速いです😂
AIによる生成的RAW現像
ではもう少しRAW現像に踏み込んで、最近の話を。
生成的なAIによるクォリティの向上


こちらは最近の話ですが第四次産業革命と言われているAIの台頭によって、コンピュータが学習をもとに生成的な処理を行ってくれるようになりました。
他にはいくつかあるものの、今現在で劇的に効果のあるものは
- ノイズ除去
- 解像度向上
この2つじゃないかと思います。
何が生成的かというと、ノイズ除去については「ノイズのある場所が本来どうあるべきなのか」を多くのサンプリングデータから学習して「ノイズで失われた情報を作り出してくれる」というのがAIによるノイズ除去。
解像度向上も同様で「画素が足りない部分が本来どうあるべきなのか」を学習して、こちらも「画素が足りなくて失われた情報を作り出してくれる」というのがAIによる解像度向上です。
「ノイズ除去と解像度向上フィルタはこれまでにもあったじゃん?」と思っている方もおられるかもですが、「従来のノイズ除去や解像度向上とは全く別の、ディープラーニング技術で行われている」ので、このブログで何度か取り上げているDxO PureRAW3やAdobeスーパー解像度は一度使ってみることをお勧めします。
これからもどんどん進歩する分野ですので、AIによるRAW現像については、しばらくウォッチしておくとよさそうです。
具体的に野鳥撮影にどういう影響があるか?


RAW現像のクォリティが向上することによって、野鳥撮影に必要な装備がランク1つ下がったかな?という感じがします。
もちろん「更に綺麗に撮りたい」「更に遠くから撮りたい」といった欲望は尽きませんので、できる限り高級な装備が欲しいのは変わらないのですが、野鳥撮影を手軽に楽しむための装備的な壁は随分低くなった印象です。
ほとんどのケースで装備よりもRAW現像ソフトウェアの方が安いので、「もう少し解像度が欲しい」「もう少しISO耐性が欲しい」と思っている方は、まずはRAW現像を研究することをオススメします。


この2つの記事に私が触ってみた範囲のことは書いてありますので、参考にどうぞ。
私のお勧めはDxO PureRAW3(ノイズ除去)、Adobe(スーパー解像度)、CaptureOne(オーサリング)ですかね。
DxO PureRAW3のノイズ除去は、よほどの好条件撮影以外は何も考えずに毎回かけてます。
その後でAdobeのスーパー解像度をかけるかどうかはケースバイケースで、最後にCaptureOneで調整して現像という流れですね。
スーパー解像度はまだ得手不得手もあるので、よりよいAIアップスケーラーを探し中です 🙂
まとめ
最近ネットを見ていて、野鳥撮影はEOS R7よりもEOS R8が断然良い的な話をいくつか見かけました。
ケースバイケースで単純に比較できるものではないのですが、初心者の方が鵜呑みにしているケースが多そうでしたので、ちょっと可哀そうだなと思ってます。
R8で撮ったほうが良い結果になるケースもありますし、精細な写真を撮りたいならR7が有利なケースも多くありますので、R7からの買い替えを検討中ならば、買い替え前に一度RAW現像や撮影設定を試行錯誤することをお勧めします。
あと最近のRAW現像の急激な性能向上は目を見張るものがあって、しばらくは画質に関してはハードウェア的なものよりソフトウェア的な変化の方が大きい気がしています。
AIはまさに今が旬ですので、動向を見守りたいですね。
さて…蛇足的な情報として、この時期にEOS-1D X mark III + EF800mm F5.6L IS USMを購入する方もまずいないとは思いますが、今回のRAW現像性能UPでかなり使い勝手が良くなったので宣伝しておきます。
EOS-1D X mark III + EF800mm F5.6L IS USMによるカワセミ撮影
下の写真はノートリですが、このサイズ感で撮ってここまでトリミングしても十分解像感があります。


AI補正なしとありではこのくらい違いがあります。
※PCなど解像度の高いモニターでみてください
EOS-1D X mark III + EF800mm F5.6L IS USM は、高解像度でAFが強いEOS R1やR5 mark IIが発売されるまでのつなぎ…と思っていましたが、AI現像効果によって、もうこれで良いのでは?という気分になっています。
というのも、この組み合わせの欠点が
- F5.6では暗くてノイズが目立つことがあった ⇒ ノイズ除去が強力になって全く気にならなくなった
- フルサイズ2000万画素では解像度が厳しかった ⇒ スーパー解像度で解像度UPできた
という感じで不満がほぼなくなってしまったという状況です。
これは本当に予想してなかったのでかなりうれしい誤算…。
今からこの組み合わせを購入する奇特な人はまずいないと思いますが、修理対応も長くて使える装備ですのでカワセミ撮影ではオススメします 😛 死ぬほど重いですが
EOS R7 + EF800mm F5.6L IS USMによる超遠距離撮影
そして「できるだけ遠距離から鳥を綺麗に撮りたい」という理由で使っているEOS R7 + EF800mm F5.6L IS USMという組み合わせは、以前よりも更に遠距離からの野鳥撮影ができるようになりました。
大体1段分、テレコンx1.4をつけなくても同等以上の効果を得られているような感覚です。
同等以上というのは、テレコンをつけることによる画質劣化やF値の低下、AF性能の低下がないからですね。
先日撮ったアカゲラも、これまではこのサイズ感では証拠写真どまりでしたが、十分みられるものになっています。
以前は小鳥だと30mくらいが限界点かなという感じがありましたが、今は40mくらいなら大丈夫そうな感覚ですね。
この写真は50m超だと思います。
あまりにも遠くから撮れるので、肉眼で見えない距離から鳥を見つけるために良い双眼鏡が欲しくなってきてます 😛
これはEF800mmの話ですが、他のレンズでも当然画質は向上します。
さて、では快適な野鳥ライフを 🙂